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ガタガタ…ゴトゴト……


私はハンサム(二輪馬車)に揺られながら、
ブラム街の街並みを眺め、物思いにふけっていた。

ほんの5分ほど前に、リッちゃんにたきつけられて、
ついつい引き受けてしまった"お化けツリー"の謎の解明。
勢いで探偵社を飛び出した私は、懐中時計を取り出して時刻を確認し、
クィーンズベリーへ寄り道しても問題はない時間なことを確認すると、
さっそく馬車を呼び止め、クィーンズベリーへ走り出したのだ……


ブラム街の道は舗装はされているけど、
ところどころレンガが欠けていて揺れるから思考がさえぎられる。
私は持ってきた新聞を手に取り、改めて記事を読み返した。

"お化けツリー"は、七不思議特集号の中でも特に控えめに掲載されていた。
小さい写真1枚と、樹に関わる噂が載っているだけ。
それによると、"お化けツリー"とは宮殿地区クィーンズベリーの外れにある
場違いな雰囲気を持つ巨木のことだそうよ。
以前から気味が悪いという話こそあったけれど、噂が大きくなったのは最近で、
なんでも夜になると、不思議な装束の女性の霊が目撃されているんですって。
合わせてクィーンズベリーの警備兵やマダムたちの目撃証言も掲載されていて、
事の真偽は…といった言葉で締めくくられているわ。


「これは実に不可解で、難しい事件のようだわ……」
思わずつぶやきをもらしてしまう。
「3日で解決できる」とリッちゃんは云っていたけれど、
改めて考えると、それはちょっと無理のある話なんじゃないかしら…?
なにせ私も学生なんだから。 社交界のお付き合いもあるわけだし…

だいいち、3日で解決できなかったら別荘を貸すという話だったけど、
解決した場合はリッちゃんが何をするか聞いてないじゃないの!


「お客さん、到着しましたよ」
御者の声で我に返ると、クィーンズベリーの入り口である
巨大な石門の前に到着していた。
御者に料金を渡して馬車を降りる。

時刻は夕暮れ前。
私は橋を渡って、クィーンズベリーへ入っていった。