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かくして私はクィーンズベリーへ足を踏み入れた。
ここは別名"宮殿地区"といい、大きな堀に囲まれた区域で、
中は王宮や大聖堂があり街の中でも最も美しく整備されたところなの。
それだけに、限られた皇族や貴族しか入れないのよ。
労働者や旅人が迂闊に入ろうとするとはじきだされちゃうみたいね。
あ、もちろん私は顔パスだけどね。

さて、問題の"お化けツリー"はと……
クィーンズベリーの南西は庭園のブロックとなっていて、
そのさらに外れ、堀沿いにあるらしいわ。
トピアリーが並び、生垣とアーチで迷路のように作りこまれている庭園を
急ぎ足で通り過ぎる。


あぁ、見えたわ。 "お化けツリー"!!


「こ、これが……」
その恐ろしさに、私は思わず身震いし(夏だというのに!)、
しばし呆然と立ち尽くした。

"お化けツリー"は非常に太い幹を持ち、そこから折れ曲がった枝が
幾重にも伸びていた。
葉っぱは一枚もなく、枯れている状態みたい。
しかし、どっしりとした幹から、リンドンの灰色の空をバックに
触手のような枝が無数に生えている様子は、確かに寒気を覚えるものだった。
そうね、たとえるなら、横にツタの絡みつく古い小屋があれば、
誰もがそれを魔女の住む家と思ってしまうような、
そういう恐ろしさを感じる古木。
これが "お化けツリー"……!

ごくり、という(自分の)生唾を飲み込む音を聞き、私は我にかえった。
まだ夕方には早い夏の庭園のそばだというのに、
この巨木の一角だけ別の空気が流れているような感覚を覚える。

不安になって周囲を見回したけど、こういう時に限って
庭園を散歩しているカップルはいない……
誰か誘ってくれば良かったと後悔しつつ、私は恐る恐る樹に近づく。
そうよ、怖いけれど、探偵としては近づいて調べないわけにはいかない!


巨木の幹は私が両腕を回しても、1mほど足りないくらいの太さがあった。
表面はざらざらしていて、はがれかかった樹皮が年季を感じさせる。
樹木には詳しくないけれど、とにかく変わってるという印象。
だって、こんなに曲がってゴツゴツした樹は見たことがないもの!


樹から離れ、根元を確認してみる。
あらッ?!
今まで気づかなかったけれど、樹の横に小さい石版がある。
あまりいい材質ではない…というよりただの石の板が
芝生に埋め込まれている。
苔に半分ほど包まれた様子から、相当昔のものだと推測する。
表面をよく見ると、何かメッセージが刻まれているようだけれど、
まったく読み取れない。
最初は古いからだと思ったけど、よく見ると違ったわ。
そう、謎の文字で書かれているのよ!

これは大きなヒントになるに違いない……
私は脳裏にその文字を焼き付け、その場を後にすることにした。
日も暮れてきたので、そろそろ帰らなきゃね。

それにしても、どこかで見たことのある気がする文字ね……