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翌日。
私は学校が終わるとすぐ、パンシアさんのお宅を訪れた。
植物の研究をしているパンシアさんであれば、
あの不気味な樹のことも何か分かるのでは?と講義中に閃き、
思わずほくそ笑んでしまったことを思い出し、また思い出し笑いする。
そんな私にパンシアさんは、えらくご機嫌ですね、と云いながら紅茶を出してくれた。
パンシアさんの淹れるお茶はフラウやベルが出すものよりも良い香りがする。
やっぱり何か特別な葉っぱを使っているのかしら?


「良い風味がしますわ。 ハーブティーですか?」
「レモングラスです。
 集中力を高める効能があるんですよ」

パンシアさんはいつもの大人っぽい笑みを浮かべながら
ソファに腰掛け、テーブルの新聞を手に取る。
「お化けツリーの話でしたね。
 私もこの七不思議の記事は読みましたよ」
アンダースン紙には、小さいながらお化けツリーの写真が掲載されている。
非常にぼけていて見づらい理由は、おそらく記者が
クィーンズベリーに入れず、遠くから撮影したからに違いないわ。
「その写真から推測できることを、何でも良いから教えてくれませんかッ?!」
私は身を乗り出して、単刀直入にヒントを求めた。
パンシアさんはしばし記事を見入ったあと、
「おそらく広葉樹で、樹齢は数十年以上あるでしょうね。
 期待を外して悪いのですが、私に分かるのはそれくらいです」
と、かぶりを振りながら応えた。
「そ、そうですかぁ……」
「実際に見れば何か分かるかもしれませんが、このサイズではね」

落胆している私を見かねたパンシア先生は、ヒントを出してくれた。
「せっかくご足労いただいたので、
 アドバイスになるかもしれないことをふたつ。
 この樹は私が知らない樹であること。
 もうひとつはあの子はすでに答えを知っていることですね」


そのあとは、母のことやリッちゃんのことなど
とりとめのない話をして、先生の家をあとにしたわ。


帰途につきながら、私はパンシアさんの言葉を心の中で反芻する。
"この樹は私が知らない樹であること"
確かにそう云っていた……つまり、どういうこと?


そうだわ!!
分からない、のではなく知らないと云っていた。
つまり、博覧強記なパンシア先生の知識の外にあるということは、
この国のものではないということなのよ!
それでいて"リッちゃんはすでに答えを知っている"ということは、
決して分からない範囲ではなく、調べれば分かるということなのね。

私はきびすを返し、プランタジネット学院の図書館へ向かった。